
Vol.1で説明したガイドラインや2024年の法制化を見据えて運送会社が取るべき対応策などをローランド・ベルガーの
パートナーでロジスティクス/サプライチェーン分野に深い知見を持つ小野塚征志氏に解説いただきます。
現状の輸送効率のまま労働時間が制限されると、ドライバー1人あたりの輸送トンキロが減少します。運送会社からすれば売上減となるでしょうし、荷主からすればトラックドライバー不足で、モノを運びたくても運べなくなってしまうかもしれません。裏を返すと、労働生産性を高めることによって、労働時間が短くなったとしても1人が運べる輸送トンキロを今までと同等以上にできれば、ドライバーの賃金も今まで通り、あるいは今まで以上に確保できるはずです。つまり、どうやって輸送効率を高めるかが2024年問題を解決する上でのポイントとなります。
-Point①.運転以外の時間を短くする
今までの総労働時間を100としたとき、運転時間が60だったとしたら、総労働時間が100から80になったとしても、その80を全て運転時間に費やせれば、今まで以上に運転できることになります。いかに運転以外の時間を短くするか、いかに運転に当てられる割合を高められるかが重要なのです。
-Point②.運ぶ量を増やす
輸送トンキロは、輸送量×距離で求められます。したがって、1回に運べる輸送量が増えれば輸送トンキロを増やすことができます。トラックの車両サイズを大きくしたり、ダブル連結トラックを導入したり、トレーラーを利用したりすることが考えられます。今あるトラックのままであったとしても、積載率を高めたり、トラボックスなどの求荷求車サービスを利用して帰り荷を確保したりして、運転時間全体での輸送量を増やすことができれば、輸送効率は向上します。
-Point③.走行速度を上げる
走行速度を上げれば同じ時間で運べる距離が延びます。輸送トンキロは、輸送量×距離で求められるからです。現在、国では高速道路での大型トラックの制限速度を80km/hから100km/hに引き上げることを検討しています。現状の安全レベルを維持できることが大前提となりますが、乗用車の制限速度は一部区間で120km/hにまで引き上げられたことを考えると、あながち非現実的とは言えないでしょう。
これら3つのポイントは、全部できるのであれば全部やれると良いですし、全部ではなくてもどれか1つでも実践していけると良いと思います。
運転時間以外の付帯業務を減らせば、その分だけ輸送距離を延ばせますが、運送会社やドライバーでは付帯業務の発生をコントロールできないとの意見をいただくことがあります。
ただ、極端な話ですが、待機している間に「労働時間の上限が来てしまったのでドライバーは帰ります」となると着荷主は困ります。日本でそんなことはありえないと思いますが、海外に目を向けるとごく一般的な対応です。そもそも海外では車上渡しが当たり前なので、ドライバーが荷役作業に従事することは滅多にありませんが、日本の運送業界はお客様に優しいので、契約では車上渡しとなっているのに荷物を下ろしたり、何時間も待たされたりしても、追加料金を得ない運送会社が多いと思います。
本来の契約に準拠すれば、無料で対応する必要はありません。もちろん、長年のお付き合いの中で急にやりませんと言うのは難しいと思います。しかし、2024年問題への対応が求められている今であればこそ、荷主の理解も得やすいのではないでしょうか。
-待機時間などの実態を発荷主に把握・理解してもらう
運送会社の契約相手である発荷主は、「着荷主側の都合で待たされていること自体を知らなかった」「薄々気づいていても30分程度だと思っていた(よくよく調べてみたら実は3時間だった)」といったことが珍しくありません。
その結果としてモノが届けられなくなると、着荷主以上に発荷主が困ることになります。売上の減少を招くからです。現場の実態を定量的に見せて理解を得ることで、「単純に知らなかった」「薄々気づいていたけど定量的には把握していなかった」ということをなくしていくことが肝要です。
「法律上、ドライバーはこの制限時間内で働くことになりました」「発地から納品先までの運転だけで9時間かかります」「渋滞することを考えると、これぐらいの余裕を持っておく必要があります」「納品先で2時間待つと制限時間を超えてしまうためゼロにする必要があります」ということを嘘でもなんでもなく、きちんと「見える化」し、理解を求めていくべきです。
-物流の適正化・生産性向上は国策である
国は、2024年問題対策でガイドラインを出しました。物流事業者だけではなく発荷主も着荷主も協力して取り組むことが明記されています。そして、来年の通常国会では規制的措置の法制化が検討される予定です。今のうちに手を打っておかないと、近い将来、法令違反になるかもしれません。
しかしながら、法制化が検討されていること自体を知らない人が多いと思います。ガイドラインにあるように、物流事業者や発荷主だけではなく、着荷主も対応すべき事項であることを明確に指摘すべきです。物流の適正化・生産性向上に協力しないということは、国の政策に反すると言っていただいてよいと思います。
-日本とアメリカのトラックドライバーの年収
アメリカのトラックドライバーの年収は日本よりも高額です。円安だからというのもありますが、長距離の輸送では40フィートの海上コンテナを使うことが多く、ドライバー1人あたりの輸送量が大きいこともポイントです。加えて、車上渡しが一般的なこと、日本では考えられないほどの長距離となることもあり、1人あたりの輸送トンキロに相応の差があります。その分だけ給料が高いわけです。
日本の場合、道路環境の問題もあり、アメリカと同様のトラック輸送を実現することは困難です。年収の差は、ドライバーの技量や労働時間とはまったく関係ないと考えるべきです。

-前提として積載率は長らく40%弱の水準にある
近年、営業用トラックの平均的な積載率は40%弱の水準で推移しています。これを低いと見るべきかどうかは悩ましいです。確かに1990年代半ばまでは50%を超える水準でしたが、現在とは調査・集計の方法が異なるため、単純に比較できません。足元では微減傾向にありますが、その要因としては小口出荷の増加が挙げられます。
たまに「積載率は本来100%であるべきだ」との話も聞きますが、実際のところ日本全体での積載率を100%にすることは不可能です。一番わかりやすいのは店舗配送です。物流センターからの出荷時は100%だったとしても、各店舗に商品を届けて、帰ってくるときには0%になることが一般的です。この場合の全体での積載率は50%です。帰りに何か回収するものがたくさんあれば良いですが普通はありません。日本全体での積載率を40%以上に高められる可能性はあると思いますが、80%にできるかと問われたら「わからない」と答えざるを得ません。80%にできるかもしれないですし、45%が天井かもしれません。
-荷主・運送会社双方での全体最適の推進による積載率の向上
積載率の向上に関しては、荷主にも運送会社にも問題があります。例えば、1日3便出しているトラックの平均積載率が30%を下回っているとわかったとき、荷主なら1便にまとめられるはずです。しかし、物流部門が減便を提案しても、出荷元である工場から「ジャストインタイムでの出荷はわが社のポリシー」と言われ、今までどおりでの運行になることがあります。ポリシーを盾に、何が最適なのかをきちんと計算できないとすれば問題でしょう。加えて、減便の効果を計算したとして、工場から見れば減便による在庫量の増加は受け入れがたいとなります。本来であれば、在庫量の増加と減便による運賃削減の効果を比較検討すべきですが、日本でそれができる会社はあまり多くありません。サプライチェーンの全体最適に対する意識の低さが輸送効率の悪化につながっているといっても過言ではないのです。
一方で、運送会社にも問題があります。先ほどのケースで荷主に対して1日1便にしましょうと提案する運送会社はほとんどいません。3便が1便になれば、その分だけ売上が減るからです。本来であれば、3便を1便にして1.5便分の運賃を得るといった提案をすべきです。荷主からすればそれでも運賃は半減しますし、運送会社からすれば1便あたりの利益額が増加します。双方ともにメリットを得られるわけですが、多くの運送会社はそのような提案をできていません。
混載も同様です。A社とB社の工場は隣り合っており、出荷先も同一エリア内にある場合、両社ともに積載率40%で出荷しているのであれば、一緒に1台のトラックで運びますという提案をしてもよいはずです。最近、そのような提案をする運送会社も出てきましたが、まだまだごく一部です。
往復での荷物の確保も同じです。「このルートだと帰り荷がない」「パレットを持って帰る必要がある」などを理由に2way(往復)での契約にさせようとすることが多いように思います。本当は帰りに他の会社の荷物が運べるような状況だったとしても、その仕事を取れるかどうか不確かであれば、敢えて1wayでの契約にして「帰りは違う会社の荷物を運ばせてください」という提案を積極的にする運送会社は多くありません。2wayでの契約で相応の収益を得られているのなら、現状のままで良いのではとなります。今まではそのような考え方でも成立していましたが、運賃のさらなる上昇により荷主の問題意識が高まってくると、効率化への提案を自らしない運送会社は荷主から選ばれなくなる可能性があります。
-高速道路を利用することの経済性
国での大型トラックの速度規制引き上げに関する検討はさておき、運送会社単体でも「走行速度を上げる」取り組みを進めることは可能です。例えば、高速代をもらえないなら一般道を走るという運送会社も多いと思いますが、本当にその方が得なのでしょうか。本来であれば、労働時間が短くなるメリットと高速代を比較し、前者のメリットの方が大きいのであれば、自己負担で高速道路を走るという判断を下すことも考えられるはずです。
あるいは、2024年4月以降、労働時間の制約から高速道路を使わないと荷物が届かなくなるのであれば、高速代の支払を得られるように荷主と交渉することが望まれます。高速道路を使って、より短い時間で荷物を届けられるようになれば労働生産性の向上にもつながります。
これまでは交渉が難しかったかもしれませんが、国のガイドラインには「高速道路の積極的な利用」や「高速代などの実費の運賃への反映」が明記されています。2024年問題への対応が求められている今こそ、高速道路を利用すること、高速代を運賃に転嫁することの必要性を荷主と協議すべきだと思います。
プロフィール
ローランド・ベルガー パートナー
小野塚 征志 氏(おのづか まさし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。サプライチェーン/ロジスティクス分野を中心に、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開している。内閣府「SIPスマート物流サービス評価委員会」委員長、経済産業省「フィジカルインターネット実現会議」委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員などを歴任。近著に、『ロジスティクス4.0』(日本経済新聞出版社)、『サプライウェブ』(日経BP)、『DXビジネスモデル』(インプレス)など。